日本語とタミル語が同系統って本当?

Q. 日本語はインドの一部地域などで用いられるタミル語と同系統であるという説を聞いたことがあるのですが、これに信憑性はあるのでしょうか。

A. 日本語がタミル語を核に他言語との接触によって生み出されたとする「クレオールタミル」説は、大野晋という国語学者(故人)が提唱したものです。

日本語とタミル語は文を作るシステムが似ており(いずれも膠着語であり)、また部分的には語彙の音韻対応も認められますが、クレオールタミル説自体は比較言語学的な正当性を認めがたいものとしてほぼ全否定されるに至っています。詳しくは以下を参照してください。

大野(2000)における「クレオールタミル」の論拠

 以下のような根拠により、タミル語(南インドを中心に用いられる、ドラヴィダ語族の一言語)と他言語の接触によって生じたとする(大野2000他)

・語彙の音韻対応

タミル語                                                                             日本語

 kāva-l 防禦、保護、保存、保つこと                                    ⇔ kab-afu(庇ふ)

 kokk-i 懸け金、フック、自在鉤、留め金                             ⇔ kag-i(鉤)

 tūv-i  鳥の羽毛・綿毛                                                          ⇔ tub-asa(翼)

 ñār-u 匂う/現れる・起こる                                                ⇔ nar-u(生る・成る)

 miṭ-ai ぎっしりと詰まっている、混んでいる/一杯である  ⇔ mit-u(満つ)

・文法構造の類似

 基本語順が同一(SOV)

  Putu   malar miṭainta   pan   nūl  mālai

  新しい 花が  満ちている 多くの 糸の 花冠

  Pon   nēr   pacalai  pāvin̠r̠u.

  金色の ような 青白さが 広がった

 いずれも膠着語であり、助動詞(的なもの)の承接順序が同一

  Naṭa―tta―ppaṭṭ―an̠r̠―kollō

  行か―せ― られ―ぬ ―か

※大野説の問題点

・音韻の対応が規則的でない

 たとえばタミル語iNが日本語の「のno」「にni」いずれにも対応する理由が説明できない。

・対応を見出す「日本語」が上古語であったり現代の各地方言であったりして一定しない

 たとえばタミル語tant-ai(父)に「ちちtiti」でなく浜荻方言「タダtad-a」を対応させるなど。

・語彙収集が恣意的

 基礎語彙かどうかを問わず、似ているものを集めただけにとどまっている。

・対応しない語の多さが説明できていない

 上掲の各例も参照。

[参考文献]

大野 晋(2000)『日本語の起源』 岩波書店.

安本美典(2009)『研究史 日本語の起源 「日本語=タミル語起源説」批判』 勉誠出版.

satoyou
  • satoyou
  • 大学教員。主に日本語学系の授業を担当しています。

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